不整脈の基礎から、最新の治療まで 済生会東部病院不整脈科部長の酒井毅による わかりやすい解説を掲載いたしました。(酒井は当クリニックで毎週水曜午後に不整脈外来を担当しております)
▷心臓のしくみ
心臓は 田んぼの「田」のように計4つの部屋から成り立っています。上の2つの部屋を心房、下の2つ部屋を心室と呼び、右手側の心房を右心房(右房)、左手側の心房を左心房(左房)と呼びます。同様に右手側の心室を右心室(右室)、左手側の心室を左心室(左室)とよびます。一方、正常な心臓は安静時には1分間に60-100回拍動しています。これは心臓がこのペースで自ら刺激を作り出し、興奮しているからです。心臓の刺激を作り出している部分を洞結節と呼び、これは右心房にあります。ここで作り出された刺激は心房を伝わり、心房と心室の間にある房室結節に至り、左右の脚を介し心室に伝わり、心室が縮むことにより脈(正常脈)となります。この洞結節から心室に至る刺激の流れを刺激伝導系といいます。刺激は微小な電気ですので刺激伝導系を電線と考えるとわかりやすいと思います。これ以外に刺激を出すところや、流すところがあると生じるのが不整脈です。
刺激伝導系(黄色のところです)
心電図で見た正常脈
不整脈には大きく分けて、脈が速くなるもの(1分間に100回以下)と、遅くなるもの(1分間に60回以下)の2種類があります。前者を頻脈、後者を徐脈と呼んでいます。頻脈は原因が心房にあるもの(心室の上に原因があるため上室性と呼びます)と心室にあるもの(心室性と呼びます)にさらに分けられます。
頻脈の症状として多いのは胸の不快感、脈が抜ける感じ、動悸などですが、症状がなく、血圧測定時、エラーが出るなどで気づかれることも多いです。失神、突然死に至るものもあります。徐脈の症状としては、階段を上るなどの労作時の呼吸苦、めまいなどが多いですが、こちらも症状がなく、血圧測定時、エラーが出るなどで気づかれることも多いです。失神、突然死に至るものもあります。これらの診断は心電図で行いますので、おかしいなと思ったら医療機関を受診し、心電図をとってもらいましょう。
▷不整脈の診断
医療機関を受診した際に不整脈が出現しない場合は、24時間ホルター心電図検査や携帯型心電計等を施行します。しかし、滅多に起こらない失神など、どうしても診断ができない場合は、胸の皮膚の下に植え込み型心電計を植え込むことも行われます。電池駆動ですので約3年間は機能します。その間に失神が起これば、その時の心電図が記録され、診断に結び付き、治療が行われます。よくある失神は、学生が朝礼中に倒れる、神経調節性失神なのですが、中には不整脈が原因になっていることもあります。
植え込み型心電計
▷不整脈の治療
不整脈の治療には 抗不整脈薬による薬物治療と、頻脈についてはカテーテルを用いた根治術(カテーテルアブレーション)があります。
薬物治療の良い点は服用するだけでよいということです。悪い点は、治すわけではなく抑え込む治療であるため、発作を減らすことはできますが、0にすることはできないこと(不確実性)と、副作用がありうることなどです。抗不整脈薬はある種類の不整脈を抑えることができますが、別の種類の不整脈を起こしやすくしてしまう副作用(催不整脈作用)があり、この催不整脈作用によって生じた不整脈は時として致命的である可能性があるため、抗不整脈薬はその扱いに慣れた医療機関で行う必要があります。定期的に心電図をとるのは副作用を未然に防ぐ目的もあります。
カテーテルアブレーションは心筋焼灼術ともいい、心臓の中に血管を介しカテーテルという管を挿入し、不整脈の起源部位に熱をかけ、治療する治療法です。日本では1990年代から始まっており、現在年間約5万人から7万人が受けられています。良い点は根治が期待できること、悪い点は3泊4日程度の入院が必要になること、体の中にカテーテルを挿入して行う治療ですので、リスク(合併症)が0ではないことなどです。
カテーテルアブレーション
▷命にかかわる不整脈(致死的不整脈)について
命にかかわる不整脈には、脈が速い頻脈によるものと、脈が遅い徐脈によるものの2つがあります。
頻脈(心室頻拍、心室細動)に対してはAED(自動体外式除細動器)の植え込み版とも言える、植え込み型除細動器(ICD)植え込みが必要となります。これはICDに心臓の状態を常に監視させ、心室頻拍、心室細動を感知すると電気ショックでこれを停止させる機械です。通常は鎖骨の下の皮下に本体を、心臓の中に本体からの刺激(ペーシング)を心臓に伝えるリード線を血管を介し植え込みますが、最近はリード線を心臓に挿入しない完全皮下植え込み型のICD (S-ICD)も使用されています。状態によりお勧めできる治療法が異なるため、不整脈を専門とする医師にかかられることをお勧めします。
植え込み型除細動器(ICD)
完全皮下植え込み型のICD (S-ICD)
徐脈については、原則、人工的に脈を作り出すペースメーカーという機械の植え込みが選択されます。薬では体調により効いたり、効かなかったりする可能性があるため、確実性に乏しいからです。通常は鎖骨の下の皮下に本体を、心臓の中に本体からの刺激(ペーシング)を心臓に伝えるリード線を血管を介し植え込みますが、最近は心臓の中に植え込むもの(リードレスペースメーカー)も使用されています。
ペースメーカー
リードレスペースメーカー
▷ペースメーカーによる心不全の治療
心不全治療用のペースメーカー(CRT-P, CRT-D)も用いられています。心不全は、心臓の動きが悪くなり、血液を十分に打ち出すことができなくなった状態で、呼吸が苦しくなる、体がむくむなどを訴える病態です。心不全の予後は、ステージⅢの胃がん(進行がん)のそれと同じということが分かっています。この心不全の中にはペースメーカー治療(両心室ペースメーカー)が奏効するものもありますので、心不全と診断されたらどのような心不全かを評価することが必要です。
心不全治療用のペースメーカー(CRT-P, CRT-D)
▷心房細動について
心房細動は脳梗塞の原因になることで知られていますが、最近心不全や認知症などの原因の1つになることが分かってきました。抗凝固薬による脳梗塞の予防と、心房細動そのものに対する治療が治療の2本柱です。以前は抗不整脈薬による薬物治療しかできませんでしたが、近年カテーテルを用いたカテーテルアブレーションも積極的に行われています。心房細動の原因の約90%が、左心房に注ぐ肺静脈にあるとされており、この肺静脈が左心房と接続する部分にエネルギーをかけ、焼いて治療します。以前はエネルギー源として高周波を用いていましたが、近年は冷凍エネルギー(クライオバルーン)や、レーザー(レーザーバルーン)を用いた治療も行われています。
心房細動のカテーテルアブレーション
▷まとめ
不整脈には症状が強くなければ、特段の治療が必要ないものから、命にかかわるものまで多岐にわたります。きちんと診断され、適切な治療を受けることが必要です。
▷クリニックより
上記の記事は横浜市済生会東部病院 不整脈科 部長の酒井毅がまとめたものです。酒井は抗不整脈薬治療やカテーテルアブレーション、ペースメーカー治療に精通しており、横浜市済生会東部病院では年間200例以上の心房細動に対するアブレーション治療の他、上記で紹介した最新の治療も施行しております。
当クリニックでは 毎週水曜午後に酒井毅の不整脈外来を開設しております。健診で心電図の異常を指摘された方や、動悸症状が解決しない方など、ご予約の上お気軽に受診ください。